『黒い河』

ユーロスペース小林正樹特集を待たず、観てしまった。

『黒い河』

1957年/松竹
企画:にんじんくらぶ
原作:富島健夫/監督:小林正樹/脚本:松山善三
出演:有馬稲子渡辺文雄仲代達矢、永井智雄、淡路恵子佐野浅夫宮口精二東野英治郎、富田仲次郎、菅井きん賀原夏子山田五十鈴桂木洋子清水将夫

あらすじ:

 神奈川県厚木市。米軍基地のお膝元で、GI相手のキャバレーや飲み屋の密集地。看板の文字は英語ばかり、駅の周りは愚連隊だらけ、治安は最悪である。そこへ貧乏学生の渡辺文雄後年の悪役面がウソのような誠実イケメン)が、オンボロアパートに引っ越してくる。あいさつに来た文雄に対して金歯をギラつかせながら住人たちをクソミソにけなしてくる山田五十鈴が大家だっていうんだからどう考えても訳あり物件だ。もっとも家賃を滞納しまくっている住人たちも悪いのだが、ポン引きの東野英治郎、美容院に務めているらしいがどう見ても商売女な淡路恵子、ガキのおもり以外になにをしてるかよくわからない菅井きんらがひしめく貧民窟なのだから仕方がない。文雄は天使のような女給・有馬稲子と知り合い、多少の嫌な予感を抱えつつも、楽しい毎日が始まりそうだとウキウキしていたのも束の間、駅前から稲子を狙う愚連隊・人斬りジョーこと仲代達矢の視線があった……。

 

 

 結局このあと有馬稲子DQN野郎の仲代達矢に処女を奪われ渡辺文雄は稲子と仲良くなる機会を失うどころかケバくなってヤクザの女に成り果てた彼女の姿をドヤ顔(それも仲代達矢のドヤ顔)で見せつけられることに。高校生のころに観ていたら間違いなく寝取られ属性を植え付けられていただろう。そういう意味では不快な映画である。ただ、渡辺文雄はチンピラの嫌がらせ程度では絶対に屈しないガリ勉くんの鑑でもあるので、理不尽なことに直面しても歯を食いしばって日々を生きていかねばならないのだと教えてくれる映画でもある。この映画で文雄以外では唯一の真面目系人物は宮口精二演じるキムさん。しかし彼は真面目すぎて周りから相手にしてもらえないのだ。この違いは一体なんなんだ。

 

 個人的にハッとなったのが、仲代達矢がキャバレーで強引に有馬稲子の唇を奪うシーン、正確に言うと、逃げ回る有馬稲子仲代達矢が壁に向かって突き飛ばすカット。壁ドンなんか目じゃない。壁ドカだ。ちなみにそのキャバレーの女役でポール聖名子がいるらしいのだが、よくわからず。ちなみにこの人はシリア・ポールのアルバム夢で逢えたらでテディー・ベアーズのカヴァー「Oh Why」をデュエットしているシリアと瓜二つのお姉さん。あとは桂木洋子さんですか。松竹歌劇団出身で、黒澤明監督の『醜聞 スキャンダル』での病弱な少女役に代表される超清純派のイメージだったんですが、ここでは仲代達矢の情婦役ですからとんでもないあばずれ。後からあばずれ仲間に加わった有馬さんの先輩的な立ち位置でとてもとても色艶豊かな役どころでした。

 

 有馬稲子岸恵子久我美子と立ち上げた独立プロ・にんじんくらぶが企画なので、東宝東映、松竹、大映といった大手邦画各社に専属していないフリーの演劇人(映画で稼ぎ、その金で劇団を運営している人)の出演が多く、アパートのシーンで必然的に演劇バトルが勃発するのも見どころ。その中をさらにかき回すように、キャバレーを仕切ってる汚いババア三好栄子ら、他社専属でも隅っこで曲者オーラを出しまくってる怪優を招いているところも抜け目がない。

 

今日の東野英治郎:悪い人じゃないけどポン引き 

 

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