『脱出』

シネマヴェーラ渋谷、デビュー50周年記念 映画特集 荒木一郎の世界にて

『脱出』

1972年(未公開)/近代放映
配給:東宝(予定)
原作:西村京太郎/監督・脚本:和田嘉訓
出演:ピート・マック・ジュニア、フラワー・メグ荒木一郎、林ゆたか、石橋蓮司原田大二郎、東野孝彦、太刀川寛、柳永二郎

あらすじ:

 日本を離れブラジルで暮らすことになっていた混血の青年・サチオくん(ピート・マック・ジュニア)は出発前夜、バイト先のバーで白人に因縁をつけられ、うっかり殺してしまう。逃げ込んだ店にいた友達のダンサー・フラワー・メグは、演歌歌手の卵・林ゆたか、寡黙な哲学青年・原田大二郎らと一緒に週刊誌のインタビュー中。聞き手の記者・荒木一郎は飛び込んできた黒人青年が殺人事件の容疑者であることを即座に見破るが、こりゃ特ダネとばかりに悪知恵を働かせ、翌朝彼をブラジルに脱出させてやろうと若者たちに持ちかける。むむっ、今の話を聞いていたやつは誰だ!? フラワー・メグのファンで、彼女の自宅までストーキングをしていた石橋蓮司がさっそく捕まってしまいました。ふっふっふ、聞いちまったからにはタダでは返さん。大人しく朝まで我々と行動を共にしてもらおうか。

 

 せっかく完成したのに、つまらない大人の事情で公開が見送られ、それ以来45年間ビデオにもならず、テレビで放送もされず、フィルムもどこへ行ったかわからず、そんな幻の映画となっていた『脱出』のフィルムが今回発見され、上映された今のところ存在する唯一のフィルムの保存状態は悪く、大元のネガフィルムでも見つからない限り、今後DVDになることはまずないと思われる。あったはずなのにもう観られない映画。そんなもの実はこの世にいくらでもあるのだが、フィルム見つかって観られるようにならないと話題にしようがないので、たいていは誰にも知られぬままひっそりと忘れさられて行く。

 

 そんな幻の映画であるからして、出来がどんなに悪くても観られるだけでもありがたい、という脳内補正が効いてしまったのか、観終わるころには涙を浮かべるほど、とんでもなく感動したのだった。そんなマボロシ補正を差し引いても出来はよかったはずだと信じてはいるのだが、上映後のトークショー荒木一郎ご本人が「つまらない」「くだらない」「やる気がない」とバッサリ斬って捨てておられたので、やはりこの涙は気のせいだったのだろうか?

 

 泣けるポイント1:警察がバカじゃない……死体発見から速やかに容疑者を特定し、わずかな証言と証拠で若者グループを速やかに追い詰めていくので緊迫感が最後まで続き、クライマックスの盛り上がりが高まる。監修に東宝の犯罪・ミステリ映画やアクション映画で名作を残した須川栄三監督の名前がクレジットされているだけあって、そのあたりの描写は低予算ながら頑張っている。

 

 泣けるポイント2:フラワー・メグが意外と上手い……フラワー・メグは当時テレビの深夜番組でおっぱいを出して一気にブレイクした伝説のグラドル。ほかにも数本の映画に出演しているが、有名になった途端に引退。活動期間はわずか1年で、この映画が公開されるころにはすでに芸能界から消えていた。そんなポッと出のグラドルを主演にするなんて、サチオくんのブラジル強行渡航と同じくらい危険な試みなわけだが、これが大成功。夜のキャバレーダンサーで、名刺1束分のおっさんどもと関係を持つ根っからのビッチなのに、サチオくんのことになると天使のようにピュアな表情を見せる。そのギャップがたまらない。あとで劇団ひまわり出身だったと知り妙に納得。大島優子をドラマで観たとき、あまりに堂々と芝居していたので驚いたときの気持ちに似ている。

 

 泣けるポイント3:殺伐とした時代にあって、映画全体が若者にやさしい……学生運動真っ盛りで、社会的に若者たちが目の敵にされていたこの時代は、まるで若者がモンスターかなにかのように描かれる映画が多い(そしてたいてい、ろくに描かれもしないうちに酷い死に方をしたりする)。この映画は「あさま山荘事件を想起させるため」という理由で公開が見送られたくらいなので、その時代の殺伐さはガッツリ反映されているのだが、それでも若者たちを人間味あふれるキャラクターとして描こうという意図はあるようで、それだけで印象は全然違う。若者グループよりは少し年上で、元・怒れる若者でもあるお兄さんキャラ荒木一郎の立ち位置もすばらしい。

 

 泣けるポイント4:ガロの歌唱シーンがある……すっかり忘れていたけど、まだ「学生街の喫茶店」でブレイクする前のガロが、序盤に出てくる店でファーストアルバムからの曲を歌っているのである。いきなりマークの顔が大写しになるのでビックリしてしまった。

 

 泣けるポイント5:主演のピート・マック・ジュニアが歌う主題歌「ブラックコーヒー」がすごい……さすがは黒人ハーフ、イントロからジェームス・ブラウンばりのシャウトが響くが、歌に入ると日本人の血が勝って歌謡曲になってしまう。作詞作曲編曲がフィンガー5のサウンドプロデュースで知られる三枝伸氏で、当然のようにバックの演奏は一般庶民おいてけぼりレベルのソウルフルなもの。早すぎて売れなかった曲の典型だ。①:歌手がほぼ無名(もしくは匿名性が高い)、②:演奏はカッコいいのに歌や詞がちょっと浮いてる、③:そもそも売れてない、といくつかの条件が揃うと、現代のレコード好きが泣いて喜び、入手のために大金をつぎ込む。それに加えて映画がお蔵入りと来ては、サブカル麻雀で役満必至だ。ついでに言うと去年、サリー久保田氏のユニットがカヴァーしており、和モノレア・グルーヴDJ界隈でこのネタはとっくに使い古されておりました。 

 

今日の東野英治郎……出てないけど、息子の東野孝彦が超有能な刑事役



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