『非行少女ヨーコ』

同じく荒木一郎特集にて

『非行少女ヨーコ』

1966年/東映東京
監督:降旗康男/脚本:神波史男、小野竜之助
出演:緑魔子谷隼人石橋蓮司大原麗子、城野ゆき、荒木一郎芳村真理、東野孝彦、戸浦六宏寺山修司岡田英次中北千枝子佐野周二

あらすじ:

 田舎から出てきた家出少女・緑魔子は同郷の荒木一郎を頼って同じラーメン屋で働き始めるが当然長続きするわけなく、新宿の街角でちょいワルオヤジ岡田英次に拾われ、犯され、最終的にトルコ嬢・城野ゆきに連れられてジャズ喫茶で睡眠薬を飲んでラリってばかりいる若者グループの仲間になる。まともな仕事をしてる風なのはゲイの美容師・石橋蓮司ぐらいなもので、大原麗子谷隼人六本木野獣会を思わせるボンボンどもの吹き溜まりである。“ラリパッパのヨーコ”と呼ばれるほどラリラリな毎日を過ごすヨーコ。せっかく美人なのに、このままじゃ堕ちていくばかり。クスリやめますか? それとも人生やめますか?


 

 りりィのファースト・アルバム『たまねぎ』「私の映画』という歌が入っている。このりりィという人は新宿(今よりもずっと汚くて治安の悪い50年前の新宿、そしてこの映画の舞台)でフーテン暮らしをしていたところから出てきた歌手で、立ち位置的には椎名林檎の元祖みたいな人。現在は『半沢直樹』の母親役などすっかり女優業がメインになっているが、実は歌手としてデビューする前から演技の経験があって、映画にも出たことがあったそうだ。「私の映画」はそんな彼女が無名時代に出演した「ある映画」について歌った歌で、どこかで読んだインタビューによると、どうもそれは緑魔子が主演の映画だったらしい。「私の映画」は1972年の日本にしてはとんでもなくロックなサウンドで、40年前にこんな尖った女性シンガーソングライターがいたのかいと夢中になり、「日本のフォーク完全読本」では彼女を褒め称える原稿まで書くことになってしまった。そんなこともあって、デビュー前のりりィをどうしても特定したいがために、緑魔子が出ている映画を観られる限りずっと追いかけていたのだった。(※ちなみにりりィはドラマ『ラヴソング』でレコード会社の社長役をやっていて、これはプロデューサーが同じシンガーソングライター少女である藤原さくらの出自を意識してキャスティングしているはず)

 

 それから苦節何年、ついに特定した。『非行少女ヨーコ』で、ラーメン屋でバイトをしている緑魔子の店にどかどかとやってくる若者集団のなかの1人にりりィはいた。出番は、ラーメンを運んできた緑魔子と椅子に座ろうとしたりりィがぶつかってガチャン、とそれだけ。すぐ場面が切り替わってしまうので、カット数にして2カット。時間にして2秒くらい。りりィは美人だから寄りのカットが1つくらいあると思っていたのだが、そこは少し残念。でも、「私が初めて演ったのは映画に関係ないよな端役の端役」「私がついたその役は上流階級の娘」と、「私の映画」で歌われたような状況は確かに間違いじゃなかった。いつかりりィに会えたなら教えてあげたい。

 

 映画のほうは『893愚連隊』に引き続いてこれが東映かと思うほどのヌーヴェルヴァーグで、タイトルバックでわざわざ“監督昇進第一回作品”とデカデカと書かれる降旗康男の若さがみなぎっている。『鉄道員 ぽっぽや』とか『ホタル』とか『あなたへ』とか、最近は晩年の高倉健の座付き作家みたいになっていて、老成した映画しか撮れない人だと思いこんでいたので、画面を急に横倒しにしてみたり、寺山修司(本人)を出して暴れる若者たちを批判させてみたり、けっこう楽しませてもらった、途中までは。終盤で話をまとめにかかってから急激につまらなくなり、あれだけ荒んでいた若者たちが非常に健康な顔になって終わるところはやっぱり時代劇を作ってる会社なんだなぁとは思ったが、だからと言って全員死なれたりしても気分が悪くなるだけなので、これはこれで古き良き映画だと思えば気分もいい。

 

 八木正生が担当する音楽は日本のモダンジャズのおいしいところが凝縮されたサウンドで、あとで渡辺貞夫やら日野晧正やら、山本邦山(尺八!)やらが参加したと知って、また観直したい衝動が。当時の新宿駅周辺の風景も貴重。まだ建て替えられる前の名曲喫茶「らんぶる」も出てくる。駅の建物と伊勢丹紀伊國屋書店以外はほとんど建て替わってしまっているが、街は不思議だ。道路だけは変わりようがないので、緑魔子が現在のどのあたりを歩いていたかがなんとなく推測できる。また、谷隼人の部屋には漫画雑誌「ガロ」が転がっている。1966年3月公開の映画だから、まだ創刊してから1年ちょっとのころ、ということになる。

 

 セリフは少なかったが、大原麗子が印象的だった。まだデビュー間もないころで、人気女優特有の押しの強さが感じられないところが特に。なにせ途中までおしゃれサングラスをかけているので顔がわからない。そしてリアルの六本木野獣会メンバーなので、地下のジャズ喫茶でタバコの煙まみれになって踊り狂っているところなど、もはやドキュメンタリーの域だ。きっと東映で荒っぽい若者役にキャスティングされるたび、素の状態のままでカメラの前に立っていたに違いない。芸術家役の戸浦六宏のレセプションのシーンで緑魔子と2人してソファの上で猫のようにふてぶてしくじゃれ合っているところなど、もっと監督にレズの嗜みがあればもっと良いシーンになったのに……と惜しいことこの上ない。

 

今日の東野英治郎……出てないけど、息子の東野孝彦がストイックな若いボクサーの役


そして追記:
この記事を書いてからたった1週間後の11月11日、りりィは亡くなった。近年はライヴハウスなどにたびたび気軽に出演していたことをFacebookで追いかけていたり、NHKの「スタジオパークからこんにちは」に生出演して歌を披露したりしていたのを観ていたばかりだったので、そのあまりに早い死には驚いた。その気になればすぐ会うこともできたはずなのに、ただ無念というほかない。


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