『白い恐怖』

『白い恐怖』

原題:Spellbound/1945年アメリカ
セルズニック・インターナショナル・ピクチャーズ、ヴァンガード・ピクチャーズ
配給:ユナイテッド・アーティスツ
原作:フランシス・ビーディング
監督:アルフレッド・ヒッチコック
脚本:ベン・ヘクト、アンガス・マクファイル
出演:イングリッド・バーグマングレゴリー・ペックレオ・G・キャロル、ノーマン・ロイド

あらすじ:

 美人なのに真面目すぎて男っ気なしの精神科医イングリッド・バーグマンは、新しく赴任してきた若き院長先生グレゴリー・ペックのイケメンぶりに触れて、さすがに心がときめく。以前から彼女は院長先生の著書の大ファンであり、サイン本まで入手するほどの真面目ぶりであった。しかしある日、彼の書類に書かれたサインを見たとき、サイン本の筆跡とまったくの別人のものであることに気がついてしまう。本人を問い詰めてみると院長先生になしすましていたことがあっさり判明。やっかいなことに憧れの偽院長は記憶喪失患者であった。「じゃあ、僕は一体誰なんだ……??? 本当の院長先生は僕が……殺した……ような……気がする???」わかりました。その悩み、わたしの夢診断で解決いたしましょう! イケメンが殺人などするはずがありません。きっと真犯人は他にいます!

 

 

 バーグマンの男っ気なし設定はセリフでしか説明されず、出てきた瞬間から美女オーラぷんぷんなのであまり説得力がない。おまけに「こっ、これは医者として夢研究の発展のためにやってるんだから別に勘違いしないでよね!」的なツンデレ演技が大変あざとい。これが「あたくし美人ですけどモテない女の役もやってみたいんざますわよ」的なスター女優のエゴってやつなんだろうか。イケメン無罪の法則で話が進行するせいで余計にそう感じるのかもしれない。

 

 それでも今見る価値があるとすれば、サルバドール・ダリが美術で協力したという夢の場面だ。記憶喪失患者であるグレゴリー・ペックが見たシュールすぎる悪夢を映像で表現たこの場面は、ダリの絵画をそっくりそのまま立体化させたというキチガイぶりで、こうなってくるとダリは美術協力というよりもはや演出ヒッチコックが完全に食われている。

 

 特に残念なのが、そのメチャクチャな夢の証言からバーグマンが導き出す衝撃の事実がことごとくこじつけ臭いこと。70年前に夢分析をテーマにしたのはすごいことだし、ニューロティック(異常心理)・スリラーの傑作と言われる所以もそこにあるはずだが、夢の分析がある程度ポピュラーになった現代の目からすると少々つらいものがある。作っているほうも物珍しさだけが先行してしまっているのか、夢の分析と催眠術の区別がついてないんじゃないかと思しき胡散臭さが常について回る。

 

 ヒッチコックは1940年、イギリスで傑作を連発していたところをデヴィッド・O・セルズニックという超大物プロデューサーに引き抜かれハリウッドへ渡った。つまり、(いくら渡米後第1作のレベッカアカデミー賞を受賞したとしても)作るものに対して口出しされれば文句は言えない雇われ監督の身である。「映画術」に載っているインタビューでは「セルズニックにダリを使いたいと申し出た」と自ら語っているが、もしかして本当は押し付けられたものではないだろうか。でなければ、夢の場面がダリに丸投げしたのかと思えるほど前後の映画の流れから完全に浮いてしまうような事態は起こらないと思うのだが……。ダリの突飛なアイディアにヒッチコックはかなり苦労させられたとか、20分あった夢の場面を編集段階で2分にしたとか、自分から望んだ割にコラボはあんまり上手く行っていないご様子なのも、そう考えると納得できます。

 

 

白い恐怖 [DVD]
白い恐怖 [DVD]
posted with amazlet at 16.11.22
JVCエンタテインメント (2002-09-27)
売り上げランキング: 184,609